「今日病院に行ったらね、もう、いつ産まれてもおかしくないって。」


夕飯のために席に着いたらも続いて席に着き、言われた第一声がそれだった。
妊娠が発覚した数ヶ月前までは、いくら言われても全く実感が湧かなかったが、今ではが愛おしげに撫でるその腹を見るたびに、あぁ…今度こそ、俺は父親になれるのかと実感する。


「予定日まで、あと1週間だもんな。」

「不思議な感覚だよね。ずっと一緒にいたのに、もうすぐ、お腹の中から居なくなっちゃうんだもん。」

「…さびしい?」


目を伏せ、愛しむように、でも、どこか悲しそうな顔をした後、俺の目を見ながらはっきりと告げた。


「ちゃんと、産まれてきてくれる事が1番だよ。」

「そうだな。」

「…怖くなるの。また、ずっと一緒にいたのに、さっきまで元気だったのに…無事に産まれてきてくれないんじゃないかって。」

…。」

「死産の方が少ないってわかってるんだけど…それでもね、不安になっちゃうんだ。…こんなお母さんじゃ、だめだよね。…強く、ならなきゃ、駄目なんだよ。」

「…大丈夫。」


そう、自分に言い聞かせているを見て、すごく、切なくなった。
前の時も、今も、俺は何もできないんだ。
ただ、隣で、大丈夫だと言いながら自分にも言い聞かせて、願うことしかできない。


「大丈夫だからさ…。」

「そうだよね…、こんなに元気なんだもん。きっと、元気な子が産まれるよ。」


悲しい顔を無理に押し込め、笑ってみせる君の顔を見ると、少し心が痛かった。
一番不安なのは、なのに。
それでも、強くあろうとする。
前の事もあって、産む事が怖くて仕方がないはずなのに、それでも産む決心をしたこいつ。
あぁ…やっぱ女って、母親って強いんだなって、思うんだ。


「ねえ、子供の名前だけど、どうする?」

「あー、男か女かもまだわからないしな。最低2つは考えとかなきゃだな。」


産まれたときの、楽しみにって事で性別は聞かないことに2人で決めた。


「それなんだけどね…男の子が産まれたとき、誠二…なんてどうかな?」

「はぁ?バカ代と一緒じゃねえかよ。やだよ、そんなん。」

「元気な子になりそうで、いいと思わない?」

「元気っつか、空気が読めねえっつか…。」


俺が、ぶつぶつ言ってると、さっきも見せた愁いげな、それでいて幸せそうな瞳で見つめてきた。


「それにね、本当はお兄ちゃんがいたんだよって事…伝えてあげたいんだ。」

「そうだな、俺たちにとって、2人目の大切な子だもんな。」


そう伝えると、すごく嬉しそうな顔でほほ笑んだ。





愛しい君へ、伝わりますか?










+++あとがき+++
珍しく、1日で書き上げました。
少し、伝わりにくい設定ですみません。
子供が産まれるのってすごく、大変で、奇跡に近いんだなぁと実感する今日この頃です。
お願いだから、無事に産まれてきてね。
2010/8/18