やはり風邪というものは人の心を弱くするものなのだろうか?
「…37度5分だね。だいぶ下がってきたみたいだよ。」
「うん。」
数年ぶりに風邪をひいた。
元気のみが取り柄だったのに。
「なに?まだ辛いの?」
「ううん。だいぶ楽になった。」
私の言葉を聞くと英士はため息をつく。
「じゃあ、なんでそんなに不貞腐れてるの?」
意地がわるい。
わかってるくせに。
何年幼馴染をやってるんだ。
「。」
答えないでいると英士から少し強めの声で返事をそくすように名前を言われる。
それでも私は返事を返さない。
だって少しでも言葉を発したら…
「…皆、に会いたがってたよ。最後なのに会えないなんて寂しいってさ。」
泣いちゃうじゃないか。
「、我慢しないで。」
そう言って英士が優しく頭を撫でてくれる。
どうして、どうしてそんなに優しくするの?
いつもは少しクールで冷たいのに。
どうして、どうして私が本当に悲しい時は傍にいてくれるの?
泣きたくなんてなかったのに…
「英士が、英士が、珍しく優しくするから…。ビックリして、涙が出ちゃったじゃない。」
「そうだね。」
そう言って、私の頭を撫で続けてくれる、優しい手。
元気だけが取り柄だったのに学校を休んでしまった。
今日が学校生活最後の日だったのに。
皆と一緒に、学校に通える最後の日だったのに。
「皆と、皆と一緒に卒業したかったのに…。」
「うん。」
「全員と会える最後の日だったのに…。」
「そうだね。」
そう言って英士は頭を撫で続けてくれていた手をとめた。
あぁ、それを寂しいと感じてしまうのも風邪を引いているせいなんだ。
風邪というものはどうも心を弱くする。
いつもだったら寂しいなんて感じないはずなのに。
英士にこんな風に甘えたりしないのに。
「英士…。」
「なんて目してるの。もう二度と皆に会えなくなるわけじゃないんだから。たとえもし、皆が居なくなったとしても俺はどこにも行かないから。だから、安心して。」
英士の笑顔がまぶしかった。
先ほどまでの、得体の知れない不安はもうなくなっていた。
あぁ、風邪を引かなければ気付かなかっただろう、この安らぎ。
いつも居る事が当たり前になっていて、近くに居すぎたせいか鬱陶しいとさえ思える時もあった。
でも、この人はこんなにも安らぎを与えていたのだ。
「…それにね。」
そう言うと英士は少し間を置き、より一層きれいな笑顔を向ける。
「皆、の卒業式にも来てくれるってさ。」
涙が出た。
皆の優しさに。
「だから、安心して今は眠っていいよ。」
「うん…。ねぇ、英士。私が眠るまで、手、繋いでいてくれる?」
こんな事が言えちゃうのも、すべては風邪で人恋しいせいなんだ。
そんな言い訳をして。
優しく触れた君の手を、そっと握り返すんだ。
+++あとがき+++
卒業生の皆様、ご卒業おめでとうございます。
本当は、1年前の自分の卒業祝いに書いたものなのですが…
すっかりアップするのを忘れ、気づけば入学式も終わり、完全にタイミングを逃しました;;
そんなわけで、1年越しにアップさせていただきましたー。
全然、卒業式っぽくない作品ですが…。
お楽しみいただけていたら幸いです。
失礼しました。
2010/3/12