「椎名選手はそろそろ結婚のほうも考える歳だと思うのですが、そちらの方はどうなんでしょうか?」
「残念ながら相手がまだ見つからないんですよ。」
「では、いい人が見つかれば結婚してもいいと言うことですね。」
「はい、そうですね。」
「聞きましたか?椎名選手に恋する皆さん、今がアタックチャンスですよ!!」
「ねえ、ママ。パパは結婚してないの〜?」
それは、娘と翼の出ているバラエティー番組を見ていた時のこと。
意味を分かって言っているのか…。
こんな時になんて答えていいものか。
「うんん。パパはママと結婚してるよ?」
「じゃあ、パパ嘘吐きだ!!パパ、嘘は付いちゃいけないって言ってたのに!!」
そう。私と翼はもう何年も前に結婚して子供もいる。
でも、翼は今を煌くサッカー選手だ。
いや、それだけじゃない。
その容姿からファンも多くタレントの仕事もこなしている。
また、翼のファンには一部熱狂的な人もいて、もし結婚していると分かったときに私たちがどうなるか分からない。
だから翼は、私たちを守るために公表しないって決めたんだ。
「ただいま〜。」
噂をしていたら影。
どうやら翼が帰ってきたようだ。
「お帰りなさい。練習お疲れ様。」
「うん、ただいま。あれ?今日は椿どうしたの?もう寝たの?」
お父さんっ子で翼が帰って来るといつも一番にお出迎えをする椿。
でも今日は、先ほどのことがあり少し拗ねていて…。
「それが…」
「なんでパパ帰って来たの?パパなんか嫌い!!お家に入って来ないでよ〜〜!!!」
自分の溺愛する娘にそんなことを言われてきっと今翼は内心、気が気じゃないだろう。
「はぁ〜、翼、少し寝室に行っててくれる?椿と話しするから。」
「ああ、頼むよ。」
「ねぇ、椿。ママと少しお話しようか?」
「うん!パパは嫌いだけど、ママは好きだからいいよ!!」
私と翼は目を合わせ、お互い苦笑して別れた。
「ねぇ、椿?パパのこと本当に嫌い?」
「うん。嘘吐きのパパなんて大嫌い!!」
そう言って頬をふくらます。
でも、どこか悲しそうで、今すぐにもなきそうで…。
椿は本当に翼のことが大好きだから心のどこかに罪悪感があるんだろう。
「パパはなんであんなこと言ったんだと思う?」
「パパが…パパが椿のこと…嫌いだからなんだ〜〜。椿のパパなのが嫌だから結婚してないっていったんでしょ?」
そう言って泣き出してしまった。
「違うよ?パパはね椿やママの事が大好きだからあんなこと言ったのよ?」
そう…本当に大切に想ってくれているから…
「パパとママがね結婚してる事をみんなに教えちゃうとね、怖い人が来て椿とママに意地悪するの。だからパパは意地悪されないようにって秘密にしてるのよ?」
「パパ…椿のこと嫌いじゃないの?」
「うん!パパ椿のこと大好きだから本当はみんなに教えたいのよ?」
「椿もパパのこと大好き!!」
分かったのか分からないのか、でも椿は嬉しそうで、
「なら、パパに謝らないとね。本当はパパの事大好きだよって。」
「うん!」
そう言って椿は走っていった。
「パパ!!!ごめんなさい。椿、パパのこと大好きだよ!」
「ああ。パパも椿とママの事大好きだよ。」
そう言った翼の顔は心からの笑顔だった。